文部省唱歌 「 村の鍛冶屋 」

 私が通っていた小学校の近くに鍛冶屋があって、学校帰りに少し回り道をし、毎日のように、ここの仕事を見ていた覚えがある。当時の鍛冶屋の仕事場は道路から見える場所にあったし、槌の音はかなり遠くまで聞こえていたので、槌の音に誘われて仕事場に近づいて行ったものと思われるが、石炭やコークスが燃え盛る赤々した炎、真っ赤に焼いた鉄の塊を一人が支え、もう一人が大きな槌で力一杯打ちつける様子、鋼(はがね)に焼きを入れて刃物を作る時の真っ赤な鉄片を水の中に入れる音などが、今もありありと思い出される。大抵は一人で黙々と農機具を作ったり修理する姿だったが、鍛冶屋の仕事は当時としては先端的な特殊技術で子どもにとっては憧れの仕事だった訳ある。
 このような仕事ぶりを大抵の子どもが見たことがあったので、この歌の歌詞の意味はよく理解できていたし、当時の唱歌には少ないリズミカルで力強い曲だったので、特に男子が喜んで声を張り上げて歌ったいたことを覚えている。当時はきちんとした伴奏を弾いて教えられる先生は稀だったので、メロディーだけをオルガンで弾いてもらっていたと思うが、この曲の原点楽譜に初めて出会い、ここに掲載した音楽データを作成してみて、楽譜としては音楽的な表現もきちんと出来ているし、生き生きとしたすばらしい伴奏もつけられていて、とても感心した。
 尚、この歌は昭和17年の改訂で初等音楽(2)に掲載され下記のように1番の鞴(ふいご)がひらがなになり、2番の歌詞も部分的に下記のように変わった。

      1)しばしも休まず槌うつ響き。

        飛び散る火花よ、はしる湯玉。

        ふいごの風さえ息をもつかず、

        仕事に精出す村の鍛冶屋。

      2)あるじは名高い いいこくものよ。
 
        早起き早寝のやまい知らず。

        鉄より堅いとじまんの腕で、

        打ち出す刃物に心こもる。

 又、大正から昭和16年度までに小学校4年生だった方は下記のような3番、4番の歌詞まで歌っておられたと思います。

      3) 刀(かたな) は打たねど 大鎌(おおがま)小鎌(こがま)、

        馬鍬(まぐわ) に作鍬(さくぐわ) 鋤(すき)よ鉈(なた)よ、

        平和の打ち物 休まず打ちて、

        日毎(ひごと)に戦う、懶惰(らんだ)の敵と。

      4) 稼ぐに追いつく 貧乏なくて、

        名物鍛冶屋は 日々に繁盛。

        あたりに類なき 仕事のほまれ、

        槌打つ響きに まして高し。


                  

                    尋常小学唱歌(4) 大正1年12月
 

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