◇ 井深さんに「今度の家庭用テープレコーダ(H型)は、(持ち運びできるように)トランクに入るような形にしてよ。」といわれ、家で「トランクねぇ...」と考えているうちに設計が浮かんだ ということもありました。
そのほかにも私の結婚式の時ですが、政界の要人も出席されておられる席で、井深さんが祝辞の中で
「この人は、今みなさんが使われている"8mm撮影機"を電子的に実現する人なんです。」
と仰ってしまったのです。まだ、しっかりとした青写真もない時だったのに、こんな風に公表されてはがんばって作るしかない。(笑)
◇ 銀塩フィルムを使った8mm撮影機は記録専用で、それを再生するのには別の8mm映写機でスクリーンに拡大映写しますね、それに対して8mmハンディカムは1台で記録も再生もできるのです。しかも現像する必要がありません!
● どうして、そんなにはっきりとイメージできるんですか?
◇ 私はメカ設計をやっていましたが、図面を描く前によく考えたのです。ちょっとアイデアが出ると、すぐに図面を描きたがる人が多いのですが、図面に書いてしまったものは動きませんよね?(動いているところを、イメージしにくくなる)でも、頭の中で考えていると、
「このリールがこう動くと、ここがこう動いて・・・」
といった具合に、頭の中でメカを動かすことができるのです。こうやって、動きをはっきりイメージできるようになってから、図面化します。寝ながらイメージしているうちに設計が固まり、真夜中に飛び起きて会社へ行って図面を描いた、ということもありました。
◇ それから、自分の手を汚して、あれこれやってみないといけません。井深さんは、私のために、部品図を書く人や部品を試作する職工さん等を雇ってくれました。おかげで、ものすごく早く試作することができたのです。自分のすぐそばにものづくりの現場があったおかげで、現場から多くを得ることができました。素晴らしいアイデアを職工さんが出してくれることも良くありましたね。
例えば、ぜんまい式テープレコーダ(M型)を作った時に、ぜんまいの収納方法がまずく、ぜんまいが飛び出して怪我をしてしまったことがありました。職工さんに教えられて、飛び出さない収納方法を考えついたんです。
自分の作った部品を使って、世界初の機械が目の前で出来上がっていくので、職工さんも仕事を楽しんでくれたと思います。
● 現場に密着していることが、未来像のイメージにもつながるんですね。
◇ そのとおりです。だから、設計をやっている人は、部長になっても部長室に製図台があるのは当然だと思います。他人任せにせず、自分であれこれやってみると、いろんなことが見えてきます。
ビデオの開発の時に、ベアリングで困った問題が起きたんです。
ベアリングは通常グリスをべたべた塗って使用するのですが、ビデオデッキではそれは困ります。しかも、ベアリングのメーカは「グリスは定期的に補充するもの」という感覚ですが、家電製品でグリスの補充を行うことは困難。メーカに「グリスをなくせないか」と聞いても、あっさり「不可能」と、つれない返事が返ってきました。
そこで、自分でグリスをシンナーで除去し、ミシン油を少しだけつけ、側圧をかけて耐久試験をしてみたところ、問題なく動作することがわかりました。メーカにこの結果を説明したら、「そんな使い方があるのか!」と驚かれました。こういった研究を積み重ねて、画質を向上していったのです。
私は700件ほどの特許を持っているが、すべて実際の商品に使われているものばかり。アイデア特許はありません。
木原会長
◇ 日頃からメンバーをじっと観察し、その人の適性を考えて、あらかじめ目をつけておく。という事でしょうか?
●どうも、ありがとうございました。
著書の数々
木原氏が書かれた本に1つに「ビデオテープレコーダー」という本がある。ビデオに関する技術解説書がほとんど無い時代に出版されており、ビデオ開発のための技術が細かく書かれているので、競合他社の技術者に大変喜ばれた。
出版に際して、井深さんに許可を求めると、「すごいね。いいよ」と快諾されたそうである。 技術を公開する場合には、「どうせ見たって真似ができない」という自信があって公開するケースが多いが、木原氏の場合は、良い技術をどんどん公開して世の中に役立てたいという思いからの様である。
サインしていただきました
木原会長のお部屋
木原会長のお部屋には、SONYの創業時からの、ラジオ、テープレコーダ、マビカ(フロッピーディスク内蔵のスチルカメラ)などを見せていただきました。
木原会長の略歴(ソニー木原研究所のサイトへ)