ビジネス講演会〜木原信敏氏をお招きして


木原会長とのインタビュー

講演に先立ち、東京五反田のソニー木原研究所にて、モノづくり、ヒトづくりについてのお話をお伺いしました
日時:05/7/28(木)12:30〜14:00
場所:ソニー木原研究所 会長室にて


  ソニー木原研究所のあるビル

日本のため、世界のために伝えたい

● 今日は、お忙しい中お時間をいただきまして、ありがとうございます。

◇ 私は、井深さん達から沢山のものを受け継いで来ました。それを若い人達に是非伝えたいと思っていますし、また伝えていくのは私の義務だと思っています。この「伝える」ということについて、「自分のため」あるいは「ソニーのため」という感覚は全くありません。日本のため、世界のためになることをするのが私の務めだと思っています。
今回、このように伝える機会を作ってくださって、感謝しています。


長期的なビジョンを持ち、辛抱強く実現する

● 木原会長がお書きになった本を読んで、是非お話をお聞きしたいと思ったのと同時に、私たちと同じような「ものづくり」に携わる人たちにもお話を聞かせてあげたいと思い、今回講演会を企画いたしました。

◇ どんなところが良かったのですか?


● 最も感銘を受けたましたのは、例えばテープレコーダの開発のように、20年、30年先のビジョンを常に明確に心の内に抱かれながら、辛抱強く技術を育てていき、1つのビジネスを10年以上かけて成長させていかれたという物語です。

◇ 私には、将来この商品がどうなっていくのかという姿が、頭の中にはっきりと見えていました。実際に自分でさわって動かすことができるくらい、はっきりとしたイメージが浮かぶのです。自分は、それを形にして行っているだけなんです。

◇ また、上司から良い目標を与えられたということも影響してているでしょう。

◇ 井深さんに「今度の家庭用テープレコーダ(H型)は、(持ち運びできるように)トランクに入るような形にしてよ。」といわれ、家で「トランクねぇ...」と考えているうちに設計が浮かんだ ということもありました。
そのほかにも私の結婚式の時ですが、政界の要人も出席されておられる席で、井深さんが祝辞の中で
「この人は、今みなさんが使われている"8mm撮影機"を電子的に実現する人なんです。」
と仰ってしまったのです。まだ、しっかりとした青写真もない時だったのに、こんな風に公表されてはがんばって作るしかない。(笑)

◇ 銀塩フィルムを使った8mm撮影機は記録専用で、それを再生するのには別の8mm映写機でスクリーンに拡大映写しますね、それに対して8mmハンディカムは1台で記録も再生もできるのです。しかも現像する必要がありません!

● どうして、そんなにはっきりとイメージできるんですか?

◇ 私はメカ設計をやっていましたが、図面を描く前によく考えたのです。ちょっとアイデアが出ると、すぐに図面を描きたがる人が多いのですが、図面に書いてしまったものは動きませんよね?(動いているところを、イメージしにくくなる)でも、頭の中で考えていると、
「このリールがこう動くと、ここがこう動いて・・・」
といった具合に、頭の中でメカを動かすことができるのです。こうやって、動きをはっきりイメージできるようになってから、図面化します。寝ながらイメージしているうちに設計が固まり、真夜中に飛び起きて会社へ行って図面を描いた、ということもありました。

現場に立ち、自分の手を動かす

◇ それから、自分の手を汚して、あれこれやってみないといけません。井深さんは、私のために、部品図を書く人や部品を試作する職工さん等を雇ってくれました。おかげで、ものすごく早く試作することができたのです。自分のすぐそばにものづくりの現場があったおかげで、現場から多くを得ることができました。素晴らしいアイデアを職工さんが出してくれることも良くありましたね。
例えば、ぜんまい式テープレコーダ(M型)を作った時に、ぜんまいの収納方法がまずく、ぜんまいが飛び出して怪我をしてしまったことがありました。職工さんに教えられて、飛び出さない収納方法を考えついたんです。
自分の作った部品を使って、世界初の機械が目の前で出来上がっていくので、職工さんも仕事を楽しんでくれたと思います。


● 現場に密着していることが、未来像のイメージにもつながるんですね。

◇ そのとおりです。だから、設計をやっている人は、部長になっても部長室に製図台があるのは当然だと思います。他人任せにせず、自分であれこれやってみると、いろんなことが見えてきます。
ビデオの開発の時に、ベアリングで困った問題が起きたんです。
ベアリングは通常グリスをべたべた塗って使用するのですが、ビデオデッキではそれは困ります。しかも、ベアリングのメーカは「グリスは定期的に補充するもの」という感覚ですが、家電製品でグリスの補充を行うことは困難。メーカに「グリスをなくせないか」と聞いても、あっさり「不可能」と、つれない返事が返ってきました。
そこで、自分でグリスをシンナーで除去し、ミシン油を少しだけつけ、側圧をかけて耐久試験をしてみたところ、問題なく動作することがわかりました。メーカにこの結果を説明したら、「そんな使い方があるのか!」と驚かれました。こういった研究を積み重ねて、画質を向上していったのです。

私は700件ほどの特許を持っているが、すべて実際の商品に使われているものばかり。アイデア特許はありません。



  木原会長

木原学校

● 会長の薫陶を受けられた方々がソニーの核となる商品を生み出していかれて、「木原学校」と呼ばれていましたね。

◇ 優秀な人材を囲い込みたがる人が多いものですが、これでは自分の評価を上げることに役立つくらいで、全体のためにはなりません。こんなことを長く続ければ、ジリ貧になっていきますね。
私は、開発研究所で開発が終わったら、携わったメンバーで製造部隊を組織して製造部門に送り込みました。設計した人が製造にも関わるというやり方の方が上手くいくのです。もっとも製造には向かないが試作には向いている人もいるので、そのような人は開発研究所に残しましたが。
開発メンバーを製造へ送り出して人員が足りなくなったら、また新たに人を採ってきて育てて、次の世界初の製品を作り上げれば良いのです。


● どうやって人選するんですか?

◇ 日頃からメンバーをじっと観察し、その人の適性を考えて、あらかじめ目をつけておく。という事でしょうか?


●どうも、ありがとうございました。



  著書の数々

木原氏が書かれた本に1つに「ビデオテープレコーダー」という本がある。ビデオに関する技術解説書がほとんど無い時代に出版されており、ビデオ開発のための技術が細かく書かれているので、競合他社の技術者に大変喜ばれた。
出版に際して、井深さんに許可を求めると、「すごいね。いいよ」と快諾されたそうである。 技術を公開する場合には、「どうせ見たって真似ができない」という自信があって公開するケースが多いが、木原氏の場合は、良い技術をどんどん公開して世の中に役立てたいという思いからの様である。 


  サインしていただきました


  木原会長のお部屋

木原会長のお部屋には、SONYの創業時からの、ラジオ、テープレコーダ、マビカ(フロッピーディスク内蔵のスチルカメラ)などを見せていただきました。
木原会長の略歴(ソニー木原研究所のサイトへ)