奈良放送児童合唱団 創立50周年記念演奏会(2003.11.16)を聴いて

 この日の演奏会のプログラムは第一部が過去の歴史をふり返った思い出の合唱曲を副指揮者の奥村みずほさんの指揮で演奏し、第二部ピアノ伴奏を伴ったフォーレの合唱曲5曲、第三部のこの合唱団が得意とするアカペラ(無伴奏)の合唱曲8曲、第四部の奈良フィルハーモニー管弦楽団の伴奏を伴った「サウンド オブ ミュージック」の合唱を山中竹一氏の指揮で演奏するというものでした。
 第一部は、なつかしい子どものための名曲を、小学校の低学年の子どもから中学生、中には高校生くらいの幅広い年代の子どもたちが、洗練された歌声で生き生きと歌っており、とても好感がもてました。
 第二部は、フォーレの宗教曲でしたが、ここにきて合唱の質が大きく変わったという印象で、一人ひとりの洗練された声の響き、確かな音程感に支えられた美しいハーモニー、このハーモニーに支えられた輝かしいソロパートの歌声、作品の細部にわたって注意深く研究された音楽表現の深い味わいといったものがピアノ伴奏と効果的に調和していて、子どもの合唱でここまでの演奏ができるのかと驚きに近い感動を覚えた次第です。しかし
 第三部のアカペラの合唱曲にきて、こうした思いは更に頂点に達するのですが、ここでは児童合唱の頂点を乗り越えたたような音楽の質の高い表現に圧倒されたという実感でした。演奏する曲目はいずれも児童合唱としては極めて高度な合唱曲であり、無伴奏の中で独唱が活躍する作品もあって、一般の児童合唱団では取り上げにくい作品も含まれているように思いましたが、歌っている子どもたちは決して力んでいるわけではなく、ごく自然に指揮者の意図を深く理解し、音楽を楽しんで反応しているといった表情でした。
 ところで、私が過去に聞いて強く印象に残っている児童合唱は1969年にハンガリーの小学校で聞いたカバレフスキーの「わが祖国」という交声曲(カンタ−タ)の演奏と、韓国の宣明会児童合唱団がイギリスのBBC放送曲が主催した世界合唱コンクールで優勝した頃(1978年頃)の演奏ですが、今回の演奏を聴いて、奈良放送児童合唱団の演奏が前のふたつと比べて決してひけをとらない高いレベルの演奏だと思いました。
 それにしても、これだけの演奏レベルに達するには、指導者山中竹一氏の40年を越える並々ならぬ研究的な指導の積み重ねがあり、この合唱団を支えてこられたご父兄をはじめ、地域の皆さんの絶大な支えがあってのことと想像しますが、何よりも、子どもたちに音楽の良さ深さを感じ取って、そこへ喜んで入っていくという主体的な姿勢が育っていないとできることではないと思いました。恐らく日頃の練習の中で合唱の基礎・基本の部分の指導がきちんと積み重ねられ、その上で指導者の本物の深さを追求する妥協を許さぬ指導姿勢があってこそ、このような高度な音楽表現を作り出し得たものと思いますが、同時に子どもの心を的確に掴んだ愛情豊かな指導が積み重ねられない限り、このような高度な合唱曲に立ち向かう姿勢は育たないと思いました。
 おわりに、この日のプログラムは変化に富み、とても充実したもので、最後の第四部は管弦楽団の伴奏を伴った「サウンド オブ ミュージック」の合唱で圧倒的なフィナーレを迎えましたが、この演奏の中に、かっての団員がソリスト等で参加しておられたことも、とても印象的で、すでに生涯に亘って音楽の美しさ深さを追求していこうとする数多くの方がこの合唱団から育っておられることが分かりました。合唱団に参加することで児童期に音楽の良さ深さを体得した経験はとても貴重なもので、生涯に亘る心豊かな生き方につながることは間違いないことですが、この地で見聞きしたことから、この合唱団の活動が地域に根ざす立派な文化活動として奈良の地に根を下ろしているという実感が致しました。( 文責 田中吉徳 )
 下に当日の演奏曲の中から2曲を紹介しておきますが、高速インターネットをお使いでない方は、しばらく待たないと演奏がはじまらないことがあります。

1)フォーレ作曲  小ミサ曲より「 Benedictous(ベネディクトゥス) 」 (曲名クリック)

2)野口雨情作詞/本居長世作曲  「 七つの子 」 (曲名クリック)


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