CAMPUS-1

('85〜'87)



CAMPUS-1前景

CAMPUS-1の内部
 パネルの下に見えているのは8音分の音源ボードです。下段がVCO(電圧制御発振器)で、音の原料を作ります。三角波、鋸歯状波、パルス波(0,-1,-2オクターブ)、ホワイトノイズが発生できます。上段がVCF(電圧制御フィルタ)とVCA(電圧制御アンプ)で、これによって音に音色、強弱などの表情をつけます。音源基板はアルミフレームに固定され、写真のように取り外しが可能です(ROM交換などのため)
 写真では見えませんが、音源基板の奥にコンピュータラックと電源部があります。なお、当初はケース内部が熱くなり、CPUがよく熱暴走していたので、パネル上部にファンをつけましたが、騒音対策のためAC100V用のファンをAC40Vで駆動しています


開発風景
当時はPC-8801で、CP-M80上で開発していました。この写真では手前のサウンドモジュールを外してあります(というか、まだ出来ていなかった)。ケース内部奥に見えるのはコンピュータラックで、2枚のCPU基板、アナログ電圧発生基板、ミキサー基板などが入っています
 ソフト開発には高価な装置は使用できないので、MIDIでパソコンと通信しながらデバッグを行う専用ツールを開発しました

写真はデバッグ風景。CAMPUS-1は8音ポリフォニックだが、D/Aコンバータは高価なので、時分割して各電圧を発生される。その様子をオシロで観測中。この状態でつまみを動かすと、そのパラメータに相当する電圧出力の部分がオシロ上で動くので、視覚的な電圧デバッグが可能だった。

CAMPUS-1の構成

■8組のアナログ音源部
 市販の音源チップ(あまりなかったけど)を用いず、ディスクリートで組みました。VCOの発振はLM331(V/Fコンバータ)を用い、キー情報を指数変換して周波数を得るアンチログ変換はCPUで行っているので高安定です。チューニングは、MIDIのついた周波数カウンタを自作し、CPUで自動チューニングを行いました(「トランジスタ技術」1986年9月号に発表)
 VCF,VCAは、トランスコンダクタンスアンプLM13600を使用しています
■2基のCPUモジュール
 MIDI入出力、ユーザインターフェースなど、全体の制御用に、4MHzのZ80Aによるマイコン(後に6MHzのZ80Bにアップ)を使用しています。MIDIは、パソコンとキーボードからの制御を想定して2系統の入力があります
 音源制御用のDSPとして、TMS9995によるマイコンを用いています。VCOのログ変換、エンベロープの生成、LFO(低周波発振器)の実現や制御電圧のミックスを行い、最終的に、VCOの周波数、VCFのカットオフ周波数とレゾナンス、VCAのゲインなどの電圧を生成しています。なお、このCPUを用いたのは、当時16ビットのハードウェア乗算器を持ったものが他になく(V30が出始めていましたが)、高速演算のために選択しました。マイナーなCPUだったのでアセンブラも自作でした

CAMPUS-1の頭脳、音源制御電圧計算用コンピュータ基板。左上の青い電池は音色メモリのバックアップ用(よく暴走して消えた)
■音源割り当てによるマルチティンバー
 音源は8個あるので、これを16のMIDIチャンネルに手動で割り付け、チャネルごとに異なる音色を設定することでマルチティンバー音源として利用できました。なお、キーアサインは、チャネルごとに、ユニゾンモード、FIFOモード(空き音源をFIFOで管理するので、最も過去に空いた音源を次に使用するため、余韻が最大限残る方式)、スタックモード(最も最近空いた音源を次に使うので、余韻があまり残らないソロ演奏向き)がありました
■MiCL(Musical Instruments Control Language)
 パソコンでの自動演奏用に、フェアライトCMIのMCLをベースに、MiCLというシステムを製作しました。これはテキストベースで音程、音長を設定して行くことで演奏ができるもので、音色設定などのコントロールや、エクスクルーシブメッセージを用いたスラー演奏も可能でした。パソコンがPC-8801だと演奏がもたつくので、インテリジェントのMIDIインターフェースボードを開発しました

CAMPUS-1の仕様
・発音数:8
・VCO:1台(サウンドユニット毎)
 三角波、鋸歯状波、パルス波(0,-1,-2オクターブ)、ホワイトノイズを発生
 バランス調整可
 AR,LFOによる変調可(周波数、パルス幅)
・VCF:24dB/oct,LPF専用。レゾナンス発振可。
・VCA:
・ADSR:2台
・LFO:1台
・サウンドメモリー

CAMPUS-1プロジェクトにかかわった人々
・パネル製作:力石
・音源製作:内川、岩男、柴田
・ソフト製作:望月、内川、柴田(MiCL製作)
・MIDIインターフェース、キーボード製作(柴田)


CAMPUS-1の音
 アナログ音源特有の暖かい音がします。個人的には、BACHなどのクラシックを演奏したとき、PCM音源にありがちな不自然さが全くないのが気に入っていました。
 AR(Attack,Release専用エンベロープジェネレータ)でパルス幅が変調できたので、琴のような音も出せました

録音が残っているもので掲載可能な音
小フーガト短調(J.S.Bach)
管弦楽組曲より(J.S.Bach)
ボツ音源
●PWM方式のVCF
 当初、VCFは、直列にアナログスイッチを接続した抵抗とコンデンサで構成したCRフィルタを用いていました。スイッチのON時間をパルス幅制御しながら高速でON/OFFをすると、ON時間の割合に比例したカットオフ周波数が得られます。このフィルタは単体では非常にきれいな音がしていたのですが、CAMPUS-1に組み込むと、CPUのクロックとスイッチングクロックとのうなりなどで、使い物にならないほどのノイズが発生し、採用を断念しました

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